Ultimaker Cura 5.0.0 リリース 新しいスライスエンジンの採用

3Dプリンター

2022/05/17 Cura 5.0.0が登場しました。今までArachne Engine Beta2や5.0-betaでテストされていた新しいスライスエンジンが正式採用です。可変線幅という新しい概念が取り入れられています。今までと何が変わったのか見ていきましょう。

といっても、「Ultimaker Cura 5.0-beta版公開 一足先に新機能を体験」の記事でご紹介したものと機能的には一緒ですので、ほぼ同じ内容の記事になっています。前回記事を読まれている方には物足りないかもしれません。ご了承ください。

Arachne エンジンの特徴 可変線幅

今回のバージョンアップの目玉です。Arachneエンジンという可変線幅のスライスエンジンが初めて公開されたのは、2020/12/22でalpha版でした。その後、2021/03/12にbeta、2021/11/27にBeta2、そして2022/4/21の5.0-betaがテスト版の最終でした。長期の開発でようやく正式版となったArachneエンジンの最大の売りである可変線幅についてその効果を見てみましょう。

可変線幅の効果 その1

ラインの幅が可変出来ると何が良いのでしょうか?まず、線幅が固定であるバージョン4.13でのパスを見てみます。以下の図は壁の厚さが1.8mmのモデルをライン幅0.4mm、ライン数3の設定で印刷した物です。本来、外壁(赤線)と内壁(緑線)のみで構成されるはずですが、壁の厚みがライン幅の倍数ではないため、4本分のライン幅1.6mmと壁の厚さ1.8mmとの差が0.2mmの隙間として発生し、それを補うためスキン(黄線)によって埋める動作が発生します。その際、不連続なラインで埋められる場合があります。これはごく小さな隙間が残ると共に印刷時に断続的な動きとなり、不要な振動や騒音が発生してしまいます。

Cura 4.13.1 でスライスした時のラインの様子。

Arachneエンジンを用いて全く同じモデルを同じ設定でスライスしたものが以下の図です。ライン幅が可変されます(この場合内側2本が僅かに太い)ので、外壁内壁のみで構成され、変な断続が発生することなくモデルの肉厚1.8mmを実現しています。これが可変線幅の一つ目のメリットです。設定した線幅に対してどの程度までの変化を許容するのか、どのラインを変化させるのかなどはプリント設定で指定することが出来ます。

Cura 5.0.0 でスライスした時のラインの様子。

可変線幅の効果 その2

そしてもう一つのメリットがより薄い壁の印刷が出来ることです。以下のモデルは壁の厚さが1.8mmから0.2mmまで連続的に変化しています。印刷時のライン幅の設定は0.4mmです。旧エンジンでは設定ライン幅より薄くなると印刷を放棄します。

Cura 4.13.1 でスライスした時のラインの様子。印刷されない部分が発生。

それに対し新エンジンでは限界はあるもののある程度薄い物まで印刷できます。

Cura 5.0.0 でスライスした時のラインの様子。薄い壁も再現できています。

プリント設定の項目追加

プリント設定に可変線幅をコントロールするための新たな項目が増えました。こちらの詳しい解説は「Ultimaker Cura プリント設定の解説」のサイトで行う予定です。

Cura 5.0.0 で新たに追加されたプリント設定の項目(可変線幅関連)

また、可変線幅になることにより必要なくなった項目や、同等の機能が別名称になったものが削除されています。以下の項目が5.0.0から消えています。

Cura 5.0.0 から削除された設定項目。画面は4.13.1のもの。

Arachneエンジン もう一つの特徴

Arachneエンジンでは可変線幅以外にも、モデルの角におけるパスの生成アルゴリズムに変更が加えられています。可変線幅との相乗効果でより正確で強いモデルを印刷できると思います。

コーナーでのパスの違い

今までの内壁(緑線)は外壁(赤線)のパスをそのまま内側へ移動したようなパスを描いていました。外壁に角があれば内壁にも角が残り、外力が加わったときに応力の集中が発生します。

Arachneエンジンでは内壁の角にRが付き、内側に行くほどそのRが大きくなるようにパスが生成されます。角部での応力の集中が少なくなり強度アップが期待出来ると共に、印刷時の加速度制御、ジャーク制御で有利になると思われます。

その他の変更点

温度差による収縮補正

プリント設定に [スケールファクタ収縮補正] という項目が増えています。印刷前後の熱による収縮誤差を補正するためのものと思われます。XY軸方向とZ軸方向で設定できるようです。

今までは読み込んだモデルの大きさを変更して収縮誤差を補正していたのですが、プリント設定でも出来るようになりました。

UIのデザイン変更

プレファレンスやプリント設定などのダイアログがデザイン変更されました。

Cura 5.0.0 のプレファレンスダイアログ。設定内容はほぼ同じですが、デザインが変更されました。

起動時スクリーンの変更

起動時に表示される画面が変更されました。

アイコンデザインの変更

アイコンも変更です。

マーケットプレイスの刷新

マーケットプレイスのダイアログが新しくなりました。プラグインやマテリアルの追加を行う画面ですが、5.0.0からプラグイン等の作者が登録し直さないと表示されなくなったもようで、2022/05/18現在登録されているプラグインは20個でした。

Cura 5.0.0 のマーケットプレイスダイアログ

インストール時の振る舞い変更

インストール時に表示されていたコンポーネント選択が廃止されました。どのコンポーネントが必要かで悩むことがなくなりました。また、旧バージョンがインストールされている環境に5.0.0をインストールするときに、旧バージョンを削除するかどうかの選択も出来ないようです。したがって、旧バージョンで利用していたプリンターの情報などが引き継がれます。もし何も引き継ぎたくない場合はアップデート前に旧バージョンを設定ファイルを含めてアンインストールするか、設定ファイルのフォルダを削除もしくは一時退避する必要がありそうです。なお、5.0.0では、アンインストール時に設定ファイルを完全削除するかどうかの選択が出来なくなっていて設定ファイルが残ってしまいます。

バグフィックスやプロファイルの追加

いつものように多数のバグフィックスやプリンターおよびフィラメントのプロファイルの追加がなされています。

旧バージョンからのフィックスおよび5.0-betaからのフィックスを公式サイトから引用しておきます。

Bug fixes:

  • Added the Scale Fan Speed From 0 to 1 setting for printers that interpreted fan speed as percentages
  • Fixed a bug with extra travel moves increased the printing time, contributed by @BagelOrb
  • Fixed a bug where Monotonic Ironing breaks Ironing, contributed by @BagelOrb
  • Changed the priority of CuraEngine
  • Fixed a bug where increasing Filter distances creates extremely wide lines, contributed by @BagelOrb
  • Fixed double scroll bar, contributed by @fieldOfView
  • Fixed a bug where maximum resolution/deviation was not applied to surface mode, contributed by @BagelOrb
  • Fixed a bug where the seam placement was uneven
  • Fixed a bug where Top Surface Skin Layers didn’t work
  • Fixed a bug where Speed in the flow setting were not respected
  • Fixed a bug with unnecessary retracted travel moves
  • Fixed a bug where the Ironing Inset didn’t work
  • Fixed a bug where Support Layers were missing
  • Fixed a crash if Randomize Infill Start was used
  • Fixed a bug where Combing was in the wrong part with dual extrusion
  • Fixed a crash with Bridging and Top Surface Skin Layers
  • Fixed a bug where modifier meshes didn’t work in one-at-a-time mode
  • Fixed a bug where Tree Support Branches where not being generated
  • Fixed a bug where less support was generated
  • Changed the possibility for 100% Infill Bottom Layer for Spiralize, contributed by @BagelOrb
  • Fixed disallowed areas for Brim gap, contributed by @BagelOrb

Bug fixes after the 5.0 beta:

  • Fixed a bug where Retraction Distance couldn’t have small values
  • Fixed a bug where there were duplicated themes
  • Fixed a bug where there were scrollbars showing on tooltips
  • Fixed a bug where drag and drop was not working on the first run of Cura
  • Fixed a bug where Infill Percentages are not lined up correctly in Recommended mode
  • Fixed a bug where it wasn’t clear if the text field was active
  • Fixed a bug where highlighted text in text field is unreadable
  • Fixed missing icons, contributed by @fieldOfView
  • Fixed a bug where scrolling through long material list was not possible
  • Fixed a bug where multiply was not possible, contributed by @fieldOfView
  • Fixed a bug where micro segments are causing blobs
  • Fixed a bug where there was over extrusion when printing with gradual infill
  • Fixed a bug where error values could slice
  • Fixed a bug where the CPU was high when Cura was idle
  • Fixed a bug where an existing gcode file was overwritten when you select no to overwrite
  • Fixed a crash when selecting extruders
  • Fixed a bug where exporting profiles didn’t work
  • Fixed a slicing error with certain infill patterns
  • Fixed a bug where printing via USB stops during the print
  • Fixed a bug where the toolgrips where missing, contributed by @fieldOfView
  • Fixed a bug where the print values didn’t save when closing the page, contributed by @fieldOfView
  • Fixed the width of a Menu to fit the widest MenuItem, contributed by @fieldOfView
  • Fixed a bug where Use Single Instance of Cura in Preferences crashes upon restart
  • Fixed a bug where travels would go through the model with printing PVA
  • Fixed a bug where Concentric ironing was affecting the print quality
  • Fixed a bug where there were missing infill layers
  • Fixed AppRun permissions, contributed by @probonopd

関連サイト

このほかにも金属印刷の設定が実装されたとか、Ultimaker製のプリンターでのスピード向上とか、AppleのM1 chipsに対応したとか、不完全だけど対応言語が増えたとか色々あるようです。英語ではありますが以下のサイトが詳しいです。

あとがき

さて、いよいよArachneエンジンが正式に世に出てきました。beta2あたりから常用していたので手放しで喜んでいるのかと言えばそういうわけでもなく、実は4.13.1も残してあります。5.0.0のアピールポイントに印刷速度が速くなったってのがあるのですが、モデル形状次第では随分と遅い結果が出る場合があります。また、印刷の順番がどうにも気に入らない場合があります。今回の記事の中で言えば、例えば次のような場合。「可変線幅の効果その2」で例に出したモデルです。

外壁を印刷するときにやたらと細かく切ってきます。一周分を一度に印刷してくれるとビルドプレートへの定着が悪い材料の時などに助かるのにな、などと思ってしまいます。というわけで、しばらくは旧エンジン、新エンジンを使い分けていくつもりです。

では、また次回。

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