Ultimaker Cura 4.12.0 リリース 新機能を解説

3Dプリンター

2021/11/09にCuraの最新バージョン 4.12.0 が公開されました。4.11.0の公開からほぼ2ヶ月での新バージョンです。ベータ版が公開されたときに新機能解説の記事を二つに分けて書いていましたが、一つにまとめるとともに、使い方のガイドであるSettings Guideもバージョンアップした模様なので、正式版の公開に合わせて新しくなったところを再確認したいと思います。


新しいインフィルパターン「ライトニング」登場

インフィルパターンに14種類目の選択肢が出来ました。まず、インフィル生成のイメージをどうぞ。

下層では、なるべくインフィルを少なくしながらも、トップスキンの印刷が近づくにしたがいインフィル密度が増してきて、しっかりと上層を支えることができますので、上部表面の印刷品質を落とすことなく、フィラメントの使用量と印刷時間を節約できそうです。モデル内部の構造材というインフィル本来の目的ではなく、モデル内部にあるサポート材のような使い方をするのだと思います。もちろんモデル内部ですから印刷後に剥がすことはできません。

冒頭の動画のモデルを真上から見るとこんな感じです。トップスキンが近づくと密度が増す様子がわかります。インフィル密度は50%です。

10層目。ボトムスキン直上ではインフィルはわずか。
42層目。43層目に左下のL型部分のトップスキン1層目が印刷されます。
92層目。次の層にL型部分以外のトップスキンが印刷されます。右上のL型部分には、まだインフィルはまばら。
142層目。次の層に最後のトップスキンの1層目が印刷されます。

[グリッド]と[ライトニング]でどの程度の差があるのか試してみました。インフィル密度はどちらもデフォルトの25%です。ライトニングの下部はスカスカで、底面からインフィルが積層されるのではなく、内壁から斜めに生えてきているのが確認できます。この角度などをパラメータで変えていくようです。
下層のフィラメントの使用量が随分と少なく、強度が見込めないので、機械部品等ではなく、フィギュアなどに向いているんだと思います。

インフィルパターン:グリッド
インフィルパターン:Lightning

印刷時間の短縮も特徴としてあげられています。以下はMega-sに付いてきたフクロウのサンプルモデルを元の縮尺(全高約100mm)で印刷した時の結果です。印刷時間とそれに占めるインフィル印刷時間の割合、フィラメント使用量などにライトニングの効果が見えます。

デフォルトのグリットでの結果。インフィルが25%も占めています。
ライトニングでの結果。時間も材料もしっかり節約出来てます。

ライトニング選択時の新しい項目

ライトニングを選択すると、インフィルの生成を制御する新たな項目が4つほど表示されます。

項目の角度の意味は次のようになっています。

ライトニングインフィルサポート角度(Lightning Infill Support Angle)

ライトニングインフィルの生成に影響する以下の3つの角度を一括で変更したい場合にここで設定します。値が大きくなるほど、印刷時間やフィラメント消費量は少なくなりますが、印刷が失敗するリスクが高くなります。

ライトニングインフィルオーバーハング角度(Lightning Infill Overhang Angle)

[サポートオーバーハング角度] や [インフィルオーバーハング角度] と同様な考え方のパラメータで、設定角度以上のオーバーハング部分をサポートするのだと思うのですが、設定角度以下の部分もサポートされていたりで少し曖昧さを感じます。
たとえば、次のようなかまぼこ型の内部を覗いてみます。

生成されるインフィルには、次のような差があります。デフォルトの40度と60度の比較です。設定角度が大きいほうがサポートの領域が狭くなっています。設定角度以下の部分にもインフィルが発生しているのが少し気になります。

ライトニングインフィルオーバーハング角度 :40°
ライトニングインフィルオーバーハング角度 :60°

ライトニングインフィル 刈り込み角度(Lightning Infill Prune Angle)

インフィルが積層される時に、設定された角度を超えないように少しずつズレながら斜め上に積み重なりますが、その角度にはライン端部方向とライン辺方向の二方向の角度が存在します。 刈り込み角度 は、ライン端部(ラインの長さ方向)の積層角度を指定します。

ライトニングインフィル 矯正角度(Lightning Infill Straightening Angle)

インフィルが斜め上に向かって積層される時の上記二つの角度のうち、矯正角度は、ラインの辺方向(ラインの幅方向)の積層角度を指定します。


モデル上面の印刷品質向上

前回のバージョン4.11.0から新たに加わった[Monotonic]関連の微調整とプリントプロファイル全体の見直しで、上面の印刷品質が向上したらしいです。具体的に何処が変わったのかは現時点で把握しておりません。


モデル水平面の印刷品質向上

こちらも何処がどう変わったのか掴めていません。リンギングが減少するらしいことが書いてありすので、なるべく振動させないような滑らかな動きを実現したのでしょうか。詳細はわからないです。とにかくきれいな印刷が出来るようです。
モデル上面と水平面の品質向上については、公式のYouTube動画で印刷結果がどうのように異なるのかを比べていますので、興味ある方はご覧ください。

YouTubeサイト:Ultimaker Cura 4.12 features: New lightning infill, improved print quality


アプリケーションスイッチャーの新設

画面右上のマーケットプレイスの横に新しいスイッチャーが配置されました。色々なサービスにワンクリックでアクセスできるようになっています。以下にリンク先の画像を貼っておきます。


Ultimaker Marketplace

各種プラグインやフィラメントのプロファイルなどが置いてあるページです。


Ultimaker Academy

Ultimaker のe-learningのサイトです。Ultimaker Accountが必要で、まず、ログインの画面となります。(サインインした状態だと違うサイトに直接移動すると思います)これより先に進んだことがないので、詳細は?です。


Ultimaker support

Ultimakerのサポートサイトのトップにリンクされています。


Ask a question

Ultimakerのコミュニティサイトへのリンクです。英語が堪能な方はどうぞ。


Report a bug

バグの報告などが出来るようです。ただし、GitHubのアカウントが必要です。


Ultimaker.com

Ultimakerのトップサイトにリンクされています。


公式サイトのYouTube動画では、9つのサービスにリンクされているようですが、サインインしていてUltimaker製のプリンターを登録していたら表示されるのでしょうか?どのような時に表示されるのかの詳細はわかりません。

“My printer”、”Digital Library”、”Print jobs”
が追加されています。

起動時間の短縮

Curaの起動時間が10秒程度短縮されたようです。試しに.4.11.0と比較してみました。パソコン起動後の最初の立ち上げと2回目以降で随分と時間が違いますので、両方測ってみました。

  • 4.11.0
    初回起動:34秒
    2回目以降:10秒
  • 4.12.0
    初回起動:25秒
    2回目以降:12秒

初回に関しては、概ねウソではないようです。プロファイルデータのキャッシングを最適化した結果だそうです。私には何のことだか分かりませんけど。


その他の新機能

サインイン ダイアログのデザイン変更

どうでも良いことのような気がしますが、一応、新機能として紹介してあったので書いておきます。インストール後の最初の起動時に表示されるSign inのページ下部のデザインが変更されています。Skipする人を減らす目的でしょうか。策略にはまってアカウント登録を是非。

4.11.0
4.12.0

変数の追加

Start G-codeなどで使える変数名が追加されました。{material_type}と{material_name}です。
この変数名を記入しておけば、gcodeファイルを後で見た時に何のフィラメントで印刷したのか判断できます。他に使い方が思い浮かばないのですが、何か画期的な使用法があるのですかね。

「プリンターの設定」のStart G-codeに変数を追加。
生成されたgcodeファイルに、スライス時に選択していたフィラメントが書き込まれます。

プロジェクト名変更後の表示更新

画面左上に現在操作中のプロジェクト名が表示されているのはご存知でしょうか。デフォルトで使っていれば、プリンターの省略名に読み込んだSTLファイルのファイル名が組み合わさったファイル名(プロジェクトファイルを読み込んだ場合はそのファイル名)になっています。

で、「プロジェクトの保存」から新しい名前で保存した時に、今までのバージョンでは、画面左上のプロジェクト名が新しい名前に更新されないで元のままだったようです。

4.12.0 からは保存と同時に新しい名前に変更されます。


Pause at Height に新オプション

メニューから「拡張子」>「後処理」>「G-codeを修正」で開いたダイアログにある”Pause at height”の項目で、Park Printのオプションが選択できるようになりました。残念ながら、私はこのPause at heightを使ったことがないので、これにどういった有り難みがあるのかは理解しておりません。

「スクリプトを加える」をクリックして、”Pause at height” を選択すると表示されます。

コーミングモードにオプション追加

プリント設定「移動」カテゴリーの [コーミングモード] で選択できるオプションは、

  • オフ(Off)
  • すべて(All)
  • スキン内にない(Not in Skin)
  • インフィルのみ(Within Infill)

の4つでしたが、”外側表面には適用しない(Not on Outer Surface)”というオプションが追加されました。

(公式サイトの新機能紹介の文章の中に、この変更に関するものが見当たりませんでした。理由はわかりません。私の見落としかもしれません。もしそうだったらすみません。)

トップスキンの最上層とボトムスキンの最下層において、移動が制限されます。その他の層は”すべて”を選択した時と同じだと思います。表層だけを見ると”スキン内にない”と同じように見えますが、 ”スキン内にない”はトップスキン、ボトムスキンのすべての層で移動が制限されるところが違います。

”外側表面には適用しない” での最上層の様子。
スキン外周付近には移動が見受けられますが、完全に横切る動きは制限されている。
”すべて” での最上層の様子。

上部にスキン層が現れない形状での違いは、最下層のみでした。厳密に言えば最終層にも印刷後の逃げの動作に違いがありましたが、印刷の質に変化はないと思います。

上層表面にスキンがない形状。
”外側表面には適用しない” での最下層の様子。
”すべて” での最下層の様子。違うのは最下層のみ。

コーミングモードの詳細は「プリント設定の解説」内のコーミングを参考にしてください。


バグフィックス

いつものようにいくつかのバグフィックスがありました。オリジナルの英文を引用しておきます。

  • Fixed a bug when coming goes through skin on Top Surface Skin Layers
  • Fixed a bug in one-at-a-time mode to not wait for initial layer bed temperature if the temperature stays the same
  • Fixed a bug where there was double infill and gap filling
  • Fixed a bug with monotonic ironing that causes fan speed jump to 255 for ironing pass
  • Fixed an engine crash when using monotonic ordering with zigzag skin pattern
  • Fixed missing commas in disallowed list for code injections, contributed by @YuvalZilber
  • Fixed various typos, contributed by @luzpaz
  • Fixed FilamentChange Retract method
  • Fixed extra microsegments inserted from Wall Overlap Computation
  • Fixed inconsistent material name in the header and material selection dropdown
  • Fixed scaling model down after scaling it up with tool handles
  • Fixed single instance option when opening different files
  • Fixed duplicating and multiplying support blockers

プリンタプロファイルの追加

プリンターとマテリアルの定義が追加または変更されています。こちらも英文ですが引用しておきます。手持ちのプリンターが関係しているとテンション上がりますけど、みなさんのプリンターはいかがですか?

  • Added Creasee CS50S pro, Creasee Skywalker and Creasee Phoenix printer definitions, contributed by @ivovk9
  • Added Joyplace Cremaker M V1, M V2, S V1, contributed by @hyu7000
  • Added Hellbot printer definitions, contributed by @DevelopmentHellbot
  • Added Arjun Pro 300 printer definition, contributed by @venkatkamesh
  • Added AtomStack printer definitions, contributed by @zhpt
  • Added Weedo X40 printer definition, contributed by @x40-Community
  • Added 3DI D300 printer definition, contributed by @v27jain
  • Changed Crealiy Ender 5 Plus end g-code, contributed by @mothnox
  • Updated definitions and extruders of Hellbot Magna 2 230/300 dual, contributed by @DevelopmentHellbot
  • Updated Eryone Thinker printer profile, contributed by @Eryone
  • Updated FLSUN Super Racer profiles, contritubed by @Guilouz
  • Updated Mega S and X acceleration to firmware default, contributed by @NilsRo

で、今回は我がMega-sに少しだけ変更があったようです。プリント設定の「スピード」カテゴリにある加速度の値が、1800から1500に引き下げてあります。

4.11.0の加速度設定
4.12.0の加速度設定

Settings Guideがバージョンアップ

マーケットプレイスにあるプラグイン「Settings Guide」がバージョンアップして、2.8.0になりました。4.12.0で追加された機能などが書き加えてあります。

残念ながら今回も日本語対応はありませんでした。また、画像のキャプションと本文が重なって、見え辛くなる症状も解消されていません。


あとがき

4.12.0の新しい機能を見てきました。少々長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。いろいろ変更があったのですが、私個人的にはあまり使えそうな機能は無かったかな、といった印象です。新しいバージョンがスライスしたデータをまだほとんど印刷していないので、まだ、何とも言えませんが、水平面や表面の印刷品質向上がどの程度違うのかなどは、じっくり確認していこうと思います。

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