プリント設定の項目をもれなく解説することを目指すシリーズ第10弾。ビルドプレート密着性編です。
この記事はCura 4.9.1 で Anycubic Mega-s を選択したときに表示される項目について解説したものですので、デュアルエクストルーダー対応の機能などは省略しております。
- ビルドプレート接着タイプ(Build Plate Adhesion Type)
- スカートライン数(Skirt Line Count)
- スカート距離(Skirt Distance)
- スカート/ブリム最小長さ(Skirt/Brim Minimum Length)
- ブリム幅(Brim Width)
- ブリムライン数(Brim Line Count)
- ブリム距離(Brim Distance)
- ブリム交換サポート(Brim Replaces Support)
- 外側にブリムのみ印刷(Brim Only on Outside)
- ラフトの余分なマージン(Raft Extra Margin)
- ラフト補整(Raft Smoothing)
- ラフト間のラップ(Raft Air Gap)
- 初期レイヤーZのオーバーラップ(Initial Layer Z Overlap)
- ラフト最上層(Raft Top Layers)
- ラフト最上層厚さ(Raft Top Layer Thickness)
- ラフト最上ライン幅(Raft Top Line Width)
- ラフト最上面スペース(Raft Top Spacing)
- ラフト中央厚さ(Raft Middle Thickness)
- ラフト中央ライン幅(Raft Middle Line Width)
- ラフト中間スペース(Raft Middle Spacing)
- ラフトベース厚さ(Raft Base Thickness)
- ラフトベースライン幅(Raft Base Line Width)
- ラフトベースラインスペース(Raft Base Line Spacing)
- ラフト印刷速度(Raft Print Speed)
- ラフト上層印刷速度(Raft Top Print Speed)
- ラフト中間印刷速度(Raft Middle Print Speed)
- ラフトベース印刷速度(Raft Base Print Speed)
- ラフト印刷加速度(Raft Print Acceleration)
- ラフト上層印刷加速度(Raft Top Print Acceleration)
- ラフト中間層印刷加速度(Raft Middle Print Acceleration)
- ラフトベース印刷加速度(Raft Base Print Acceleration)
- ラフト印刷ジャーク(Raft Print Jerk)
- ラフト上層印刷ジャーク(Raft Top Print Jerk)
- ラフト中間層印刷ジャーク(Raft Middle Print Jerk)
- ラフトベース印刷ジャーク(Raft Base Print Jerk)
- ラフトファン速度(Raft Fan Speed)
- ラフト上層ファン速度(Raft Top Fan Speed)
- ラフト中間層ファン速度(Raft Middle Fan Speed)
- ラフトベースファン速度(Raft Base Fan Speed)
ビルドプレート接着タイプ(Build Plate Adhesion Type)
ビルドプレートの接着タイプには、スカート、ブリム、ラフトの 3 種類があります。 [なし] を選択して無効にすることもできます。
スカート
スカートは、モデルから少し離れたところに幾重かのラインを印刷します。これは密着性を向上させる目的ではなく、ノズルの内圧を高めてモデル印刷開始時のフィラメントの過不足を防ぐ事と、実際に押し出されたフィラメントの定着具合で、ビルドプレートのレベリングの可否などを確認することを目的としています。
ブリム
モデルの初期レイヤーの周りに一定の広さの層を印刷します。これはモデルの外周部と一体化して、ビルドプレートとの接触面積を増やすことで密着性を向上させています。
ラフト
ビルドプレート上に複数層(デフォルトで4層)の厚いプレートを印刷し、その上にモデルを配置します。ブリムよりも密着性が増しますが、印刷後に除去する必要があり、手こずるのはサポートのそれと同じなので、どうしてもビルドプレートから剥がれてしまう材質や形状の時以外はほぼ使わないような気がします。
スカートライン数(Skirt Line Count)
モデルの周囲に印刷するラインの数を指定します。印刷するモデルの初期レイヤーの大きさによって印刷されるラインの長さが変化します。スカートの目的がフィラメント押出の安定化と印刷状況の確認ですので、それを達成する長さが確保できる数を指定します。大きなモデルの印刷の場合、必要以上のラインが描かれ時間と材料に無駄が生じないよう注意が必要です。モデルが非常に小さい場合は、指定した周数でも押し出しが安定するに至らない場合があります。[スカート/ブリム最小長さ] で最小長さを指定しておくと安心です。
スカート距離(Skirt Distance)
モデルとスカートの間隔をmmで指定します。スカートの最も内側のラインまでの距離です。
スカート/ブリム最小長さ(Skirt/Brim Minimum Length)
[スカートライン数] または[ブリムライン数] で指定したライン数で印刷した時のラインの長さがここの設定値に達していなければ、その設定値に達するまでラインが追加(1周単位)されます。この最小長さによって押し出されるフィラメントの量が、印刷前のノズルの準備に十分である必要があります。
モデルの直径が20mmの場合、ラインの長さは約298mmで最小長さを越えているので、スカートライン数は設定値通り。
モデルの直径が14mmの場合、ラインの長さは約241mmで最小長さに達していないので、スカートライン数は3だが、4周印刷される。
ブリム幅(Brim Width)
ブリムの幅をmmで指定します。幅を広くすると密着性が向上します。
ブリムライン数(Brim Line Count)
ブリムの幅をブリムのライン数で指定します。通常は [ブリム幅] と品質カテゴリーの [スカート/ブリムライン幅] × [初期レイヤーのライン幅] の値から計算された数が入力されていますが、直接入力した値が優先されます。
ブリム距離(Brim Distance)
ここに数値を設定するとモデルとブリムの間に隙間が発生します。図では完全に離れていますが、これではブリムの意味がありません。ライン幅の半分くらいの値を設定すると、モデルと微妙に接着し、密着力を上げる役割を保ちながら印刷後のブリム除去を簡単にすることが出来ます。
ブリム交換サポート(Brim Replaces Support)
この設定はブリムとサポートが発生する領域が重なった時に、ビルドプレート上にどちらが生成されるかを選択します。左図のようにブリムの領域とサポートの領域が重なっている時、[ブリム交換サポート] が無効だと、ブリムはサポートに追いやられビルドプレート上に生成されるのはサポートです(中図)。一方で、有効な場合は右図のようにビルドプレート上にはブリムが生成され、サポートはブリムの上から生成されます。また、右図からわかるようにブリム領域外のサポートはビルドプレート上から生成されます。デフォルトは有効で、モデルの密着性が増します。
外側にブリムのみ印刷(Brim Only on Outside)
モデルの初期レイヤーに穴(形は問いません)がある場合、この設定を有効(デフォルト)にすると穴の内側にはブリムが生成されません。穴の一部が欠けて外周と通じている形状は対象外です。穴内部のブリムは密着性の向上にあまり寄与しませんので、印刷後の除去の手間が省けるというメリットの方が大きいです。ただし、穴の内側の初期レイヤーに何か印刷する形状がある場合はその穴のみ無効となりブリムが生成されます。
ラフトについて
ラフトに関する設定を解説する前にラフトについての基礎知識を少々。
ラフトは4層で出来ています。下からベースレイヤー、ミドルレイヤー、トップレイヤー(デフォルトで2層)があり、それぞれに対してレイヤー高さ、ライン幅、ライン間隔、印刷速度、ジャーク、ファン速度を指定できます。下の2層は必ず印刷されます。トップレイヤーの2層は希望する層数に変更することが出来ます。モデルの初期レイヤーはラフトの上に印刷され、モデルとラフトの隙間や、モデル2層目以降の印刷位置(高さ方向)などを指定します。
ラフトの設定項目で寸法に関するものを図にまとめてみました。
ラフトの余分なマージン(Raft Extra Margin)
この設定は、ラフトがモデルからはみ出す量をmmで指定します。ラフトを大きくするとビルドプレートとの密着性が向上します。ラフト除去時のつかみ代が増えて外しやすいといった副次的な効果もあります。ただし、時間と材料の消費が多くなります。デフォルトは 15mm で十分に広いです。
ラフト補整(Raft Smoothing)
ラフトのコーナーにはある曲率の半径が設定されますが、ここでは内側の角の半径を指定します。ちなみに、外側の角の半径は、[ラフトの余分なマージン] の値により変化します。
ベースプレート上の隣接したモデルにもラフト補整の値が影響します。ラフト同士の間隔がラフト補整の値の2倍以下の場合にはそれぞれのラフトが接続されて密着力が増します。
ラフト間のラップ(Raft Air Gap)
モデルの初期層を印刷する時にラフト上面とどの程度の隙間を設けるかを指定します。ラフト面とモデルの密着度合いを調整する値です。大きくするとラフト除去時の苦労が減りますが、密着不足により印刷失敗の可能性が増えます。デフォルトは0.3mmであり、モデルのレイヤー高さが0.2mmであれば、ラフト上面から0.5mmの高さ(隙間)で印刷することになります。フィラメントの押し出し量はレイヤー高さの0.2mm分ですので、随分と”疎”な印刷になります。和訳のラップはギャップの間違いであろうことは知らないふりをします。
初期レイヤーZのオーバーラップ(Initial Layer Z Overlap)
モデルの初期レイヤーを除く全てのレイヤーをここで設定した値だけ下にずらします。モデルの初期レイヤー印刷時のエアギャップで発生した”疎”を埋めるためです。デフォルトは、[ラフト間のラップ] の半分の値です。
左図はプレビュー通りに描いたものです。寸法はデフォルトの値を採用し、縦横比を変えないで描いています。モデルの1層目と2層目の高さの差が0.05mmしかありません。実際には1層目の印刷時にラフト上面までフィラメントが垂れてきます。フィラメントがどのような形で固まり、幅、高さがどうなるのか想像でしかありませんが、まぁ、こんな感じかなで描いたのが右図です。
このオーバーラップの影響で全体の高さの寸法精度が悪くなります。
ラフト最上層(Raft Top Layers)
トップレイヤーの数を指定します。デフォルトは2です。多いほどトップレイヤーの平面度が上がりますが、どう頑張ってもモデル底面は荒れますし、時間もかかりますので、デフォルトで十分だと思います。
ラフト最上層厚さ(Raft Top Layer Thickness)
ラフトのトップレイヤーの厚さを指定します。1層分の厚さです。したがって、[ラフト最上層] の値にこの厚さを乗じた厚さがトップレイヤーの合計の厚さです。
ラフト最上ライン幅(Raft Top Line Width)
ラフトのトップレイヤーのライン幅を指定します。デフォルトは、品質カテゴリーの [ライン幅] と同じです。
ラフト最上面スペース(Raft Top Spacing)
この設定はトップレイヤーのライン間の距離を表しています。デフォルトは、[ラフト最上ライン幅] と同じです。したがって、密度で言えば100%です。密度が高いほど密着性がよく、平滑ですが時間はかかります。
ラフト中央厚さ(Raft Middle Thickness)
ラフトのミドルレイヤーのレイヤー高さを指定します。デフォルトは品質カテゴリーの [レイヤー高さ] の150%です。
ラフト中央ライン幅(Raft Middle Line Width)
ラフトのミドルレイヤーのライン幅を指定します。デフォルトでは、品質カテゴリーの [ライン幅] の2倍の値が入力されます。
ラフト中間スペース(Raft Middle Spacing)
ラフトのミドルレイヤーのライン間隔を指定します。デフォルトは [ラフト中央ライン幅] に0.2を足した値です。
ラフトベース厚さ(Raft Base Thickness)
ラフトのベースレイヤーのレイヤー高さを指定します。デフォルトは品質カテゴリーの [初期レイヤー高さ] の120%です。
ラフトベースライン幅(Raft Base Line Width)
ラフトのベースレイヤーのライン幅を指定します。デフォルトは 0.8mm で、他のレイヤーと異なり、品質カテゴリーの [ライン幅] の影響を受けません。
ラフトベースラインスペース(Raft Base Line Spacing)
ラフトのベースレイヤーのライン間隔を指定します。デフォルトは [ラフトベースライン幅] の2倍です。間隔を狭くすると密着性が向上します。ただ、ベースレイヤーは印刷速度も遅めに設定するため、印刷時間が長くなります。
ラフト印刷速度(Raft Print Speed)
この設定は、ラフト印刷中の印刷速度を指定します。各レイヤーごとの印刷速度設定の元になる値を入力します。反りを少なくすること、ビルドプレートととの密着性を上げることを目指して変更します。デフォルトは、スピードカテゴリーの [印刷速度] の50%です。フィラメントの押し出しを伴わない移動時の速度はスピードカテゴリーの [移動速度] の値で制御されます。
ラフト上層印刷速度(Raft Top Print Speed)
ラフトのトップレイヤーが印刷される時の印刷速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷速度] と同じです。
ラフト中間印刷速度(Raft Middle Print Speed)
ラフトのミドルレイヤーが印刷される時の印刷速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷速度] の75%です。
ラフトベース印刷速度(Raft Base Print Speed)
ラフトのベースレイヤーが印刷される時の印刷速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷速度] の75%です。
ラフト印刷加速度(Raft Print Acceleration)
この設定は、ラフト印刷中の加速度を指定します。各レイヤーごとの加速度設定の元になる値を入力します。デフォルトはスピードカテゴリーの [印刷加速度] の値と同じです。ラフトは長い直線が多いことと、印刷速度自体が遅いことにより、加速度を変更しても印刷時間にはあまり影響を与えません。なお、フィラメントの押し出しを伴わない移動時の加速度はスピードカテゴリーの [移動加速度] の値で制御されます。
ラフト上層印刷加速度(Raft Top Print Acceleration)
ラフトのトップレイヤーが印刷される時の印刷加速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷加速度] と同じです。
ラフト中間層印刷加速度(Raft Middle Print Acceleration)
ラフトのミドルレイヤーが印刷される時の印刷加速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷加速度] と同じです。
ラフトベース印刷加速度(Raft Base Print Acceleration)
ラフトのベースレイヤーが印刷される時の印刷加速度を指定します。デフォルトは、[ラフト印刷加速度] と同じです。
ラフト印刷ジャーク(Raft Print Jerk)
この設定は、ラフト印刷中のジャークを指定します。各レイヤーごとのジャーク設定の元になる値を入力します。デフォルトはスピードカテゴリーの [印刷ジャーク] の値と同じです。ラフトは長い直線が多いことと、印刷速度自体が遅いことにより、ジャークを変更しても印刷時間にはあまり影響を与えません。なお、フィラメントの押し出しを伴わない移動時のジャークはスピードカテゴリーの [移動ジャーク] の値で制御されます。
ラフト上層印刷ジャーク(Raft Top Print Jerk)
ラフトのトップレイヤーが印刷される時の印刷ジャークを指定します。デフォルトは、[ラフト印刷ジャーク] と同じです。
ラフト中間層印刷ジャーク(Raft Middle Print Jerk)
ラフトのミドルレイヤーが印刷される時の印刷ジャークを指定します。デフォルトは、[ラフト印刷ジャーク] と同じです。
ラフトベース印刷ジャーク(Raft Base Print Jerk)
ラフトのベースレイヤーが印刷される時の印刷ジャークを指定します。デフォルトは、[ラフト印刷ジャーク] と同じです。
ラフトファン速度(Raft Fan Speed)
この設定は、ラフト印刷中のファン速度を指定します。デフォルトは 0% です。ファンの速度を上げると材料の冷却が早くなりますが、これは、フィラメント内部の残留応力が十分に開放できないまま固化することを意味し、反りの原因のひとつとなります。また、密着力も高温を維持している時間が長い方が高くなります。これらのことを優先しラフトの印刷では低目のファン速度を選択します。
ラフト上層ファン速度(Raft Top Fan Speed)
ラフトのトップレイヤーが印刷される時のファン速度を指定します。デフォルトは、[ラフトファン速度] と同じ値です。トップレイヤーは密着性よりも平滑性を優先するので、ラフトの他のレイヤーよりも高めでも構いません。一方で反りに対してはやはり遅い速度のほうが有利です。
ラフト中間層ファン速度(Raft Middle Fan Speed)
ラフトのミドルレイヤーが印刷される時のファン速度を指定します。デフォルトは、[ラフトファン速度] と同じ値です。
ラフトベースファン速度(Raft Base Fan Speed)
ラフトのベースレイヤーが印刷される時のファン速度を指定します。デフォルトは、[ラフトファン速度] と同じ値です。密着性の向上と反りの減少のためファン速度を一番遅くしたいレイヤーです。
ビルドプレート密着性 編は以上です。
Cura 4.9.1 のその他の情報はこちらでどうぞ。
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